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※二日目その5
2011年、9月28日。
叩き潰した、という表現は厳密に言うと適切では無い。
思い切り踏み潰したのだ。
丁度、膝より少し上くらいの高さで此方へと飛んで来ていたので、其処を思い切り踏み潰した。
…
逃げ惑ってたオバンとかバイトとか浮塵子の如き有象無象共『…ウォォォォォォォォォッ!!!!!』
パチパチパチパチパチ、パチパチパチパチパチ、パチパチパチパチパチ…
途端、まさかの拍手喝采。
『流石っす!握手してくださいっす!』と、どさくさに紛れて手を握ってくるバイトの兄ちゃん。
『ええ仕事したで兄ぃちゃん!』と肩を叩こうと寄って来るオバン。ええい触るな気持ち悪いっ!
瘴気といっても言い過ぎではない余りにもドギツい脳天お花畑共の臭気に耐え切れず、潰れたハチを恐る恐る覗き込んでいた妹を促し、そそくさとその場を離れる。
スズメバチやゴキブリを潰して友人に喜ばれたことはあったが、流石に拍手されたことは無かった。しかも、ただゆっくりとホバリングしていただけのアシナガバチだ。
もう情けないやら恥かしいやら…兎にも角にも居た堪れなかった。
『やったやん。アンタ、英雄やん?ニヤリ』
居た堪れなかったが、妹のニヤリで幾分持ち直す。
そうだ、俺としては"それだけ"で良かったんだな。有象無象のことなぞ、そもそもが関係なかったのだ。
…よし、それじゃあ気を取り直して!
『気を取り直して、行きますか!海鮮生しらす丼!!』
妹に『応!』とばかり頷き返し、バッと目的の店舗に目をやる俺。
そして目に入る目的の店舗・・・の前にズッラァァァァァァァァァァァァァァァァァ…と伸びた長蛇の列!
膝から崩れ落ちそうになった。何だあの行列。先ほどのアシナガバチ騒ぎなんて何処吹く風だ。
『おい、アレよ…並ぶかや?』
『いや…アレは無いろう。時間の浪費やか。』
『よな、まぁ無いにゃ。ほいたら、向こうか。』
『うん。別に行こうや。』
満場一致で目的の店舗を諦め、直ぐ入れる店を探す。
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JariBu Afrobeat Arkestra/Natural Vibes
コレでアレだ、日本のインストゥルメンタル・アフロビート・バンドなのだ彼らは。
"日本の"、そう此処が重要である。彼らは、この"音"で、日本発インストゥルメンタル・アフロビート・バンドなのだ。
アフロビートとは、四十年以上も前にアフリカの黒人開放家でありアーティスト『フェラ・クティ』が自身の作り上げた音楽に対して名付けた所から始まり、以降今日に至るまで様々な地域にて様々な有志達に脈々と受け継がれてきたモノらしい。
そう、そしてこの極東に『ジャリブ・アフロビート・オーケストラ』が在る、という訳だ。
オーケストラ、と言うだけあって2012年時点でのメンバー数は12名、インストバンドであるので皆何某かの楽器を演っているという事だろうが、それにしても聴く曲聴く曲、本当にグルーヴィである。
いや一度で良いから彼らの曲を、出来たらライブで楽しみたいもんだ。酒を片手にね。
…。
ん?今回はいやにライトな感じじゃないかって?
いや、そもそもがね、本来はこのくらいの物なのよ俺ムジクって。好きな曲を好きだという、ただそれだけのもんなんでね。
此処最近の"普段"が異常、という事で一つ宜しく笑
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『何名様ですかー?二名様!いらっしゃいませ二階へドーゾー!』
程なく混んではいるものの直ぐに入れる店舗を発見し、一切の躊躇もなく、入店する二人。
入って直ぐ左手には古ぼけたレジスター、そして正面には階段があり、店の給仕が此方の人数を確認したあと、その階段を上れと言う。
その店舗、形状は白を基調とした円筒形の二階建て、外から見るに二階にはバルコニーがあった。
勿論、喫煙席などは端から存在しない全席禁煙システムなので、店内だろうがバルコニーだろうが煙草は吸えない。コレが江ノ島クォリティ。ヤレヤレだぜ。
いざ二階に上がってみると、一階とはうって変わって海に向かって半放射状とも言おうか、半円を描くように窓が設置され、180°パノラマビュー。
そして、その窓に沿う様に配置されたテーブル席が幾つかと、同じく窓に沿う様に海に臨んで設置されたカウンター席。
『いらっしゃいませー!開いているお席にドーゾー!』
そこそこ元気よく声を掛けてきた給仕に頷きを返しつつ、何処に座ろうが大した違いも無かろうが、まぁ折角だし景色は良いに越したことも無いか…と、海の見えるカウンター席に座る。
…尤も、二階に上がって直ぐのパッと見ではこの席くらいしか開いていなかったのだが!選択の余地無し!
『いや、もうよ、マジで超腹空いちゅうきね!悪いけどイクでー?』
『おーイケイケ!俺も今日は何も食うて無いき腹へっちゅうがよ。』
『アタシもアレやきね!マクドでも敢えて何も食わんかったがやきね!負けちゃあせんで!』
バッ!!(メニューを思い切り左右におっぴろげる音)
キラ、キラ、キラ、キラ…(目の前に広がった極楽浄土かくやな料理群の写真に対する脳内効果音)
『コレ、むちゃ美味そうやん…』※気持ちハモり気味
…さぁ!!そんな訳で、お待ちかね!!(誰がよ?と問われれば、勿論、俺が!!俺たちが!!ガンダ※それ以上は止めておけ)
以下、私たち兄妹が江ノ島で舌鼓を打った、その料理の数々でございますヨー!とくと御覧じろ!!
はい、まずは生シラス海鮮丼!シラスも鮮度抜群、ギラッギラに立っていた。
(他所の県は知らんが、高知では鮮度の良いドロメなどのあの咥内に刺さる感じを"立つ"と表現する。)
醤油にワサビを溶いてチョロロと回し掛けしてから、思いっきり、それはもうガッツガツと搔き込んでやった。
丼をアップにすると、こんな感じ。赤身や貝も然る事ながら、海老がまた地味に美味かった。地味に美味かったってなんやのって思うけれども。
あー、派手さは無いけど安定した美味さ?みたいな、まぁそんな感じに美味かった笑
でもね、いやでも実はさ、この店で食べた物の中ではね、コイツが一番美味かった。
ハマグリの磯焼き…だったかな。コレはね、いやぁコレは美味かったよ。本当に。焼酎、ロックでね、二杯イったった笑