★放浪虫(2011・神奈川)・目次

※三日目その9

2011年、9月29日。

時刻は2時30分を少し回った頃、秋葉原を後にした俺はと言えば浜松町駅に居た。


そう、山手線にて浜松町駅に移動し、世界貿易センターを見上げていた。


…うーん、高い。

…(もしもこのビルが世界貿易センタービルじゃなかったら、どうしよう)

そんな訳で、とうとう今回の東京観光では最後の観光地となるであろう港区へと降り立った訳であるが、その目的はと言えば勿論、東京タワーだ!
時間が許せば増上寺にも寄りたい所だが、帰りの便は6時。空港へは5時半までに入っておきたいので、今からの時間的猶予は二時間強と言ったところか。

それならば、こんな所でマゴマゴとしている暇も無い。特に何も考えず、まずは!とばかり、今居た場所より少し移動してみる。折角の旅である、気の向くままに。
初めての土地ではあるが幸い目指すのは東京タワー、少し歩けばきっとこの辺からでも見えるはず。それを目印に歩けば良いのさ!

見よ!これぞ旅玄人ならではのシャープな思考!←皆様、此方をご覧ください。此方が便利な"地下鉄での移動"という選択肢をすっかり見落とした旅素人でございまぁす。

左手には開けた広場にガラス張りのビルディング、正面からは少し強めに頬をなぶる風。
9月末とは言えまだまだ残暑厳しい折ではあったが、流石にこの時刻になると日差しにも幾分秋めいたものを感じる。

そして、

振り向くと其処に、

東京タワー。

そう、つまり向かいたかった方角と正反対に進んでいた。

ビックリだ!(いや本当によ)

まぁ、そんなこんなでね、いつも通りのノリで道草を食いつつも、それよりは一路、青空を割るが如くそびえ立つ東京タワーへと向かった。

やっぱりデカい…んだよな、アレな。
牛久大仏で痛感したが、余りにデカいと遠近感が狂って遠くからではイマイチその大きさというものがピンと来ない。

と、その道中に興味深い場所を発見。

興味深いと言っても、まぁただの喫煙スペースなのだが、東京…と言うか芝公園エリア特有なのかな…兎に角、歩道の途中にあって歩道から街路樹や花壇などで隔離された、溜まりのようなスペースなのだ。灰皿の他には、公衆電話とベンチもある。

高知なんぞでは最近は歩道に喫煙スペースなんてのは以ての外らしく、灰皿もすっかりその姿を消してしまった。
そうして仕方なく、喫煙者は大体コンビニの前に置いてある灰皿付近で吸ったりしているものだが、こういう感じに歩道に喫煙スペースが設置されていると非常に有り難い。

物珍しさも手伝い、早速一服しようとそのスペースに足を踏み入れてみると、先着が二名。
此方をジロッと見て、そうして慌てて目を逸らす。まぁまぁ、御シャイさんですこと。

…(野郎三人が黙々と煙を吸っては吐いております。)

…(咲き乱れる花や緑鮮やかな木々に囲まれて、ただ黙々と)

…(煙を吸っては吐いて…ケシケシ)

余りにもムサい空間に堪らず煙草を消し、そそくさとそのスペースを後にする俺。
さぁ、目指すは東京タワーだ!

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本日のムジクでは『hal』の『6階の少女』という楽曲を紹介しようと思う。

hal/6階の少女

hal…ハルは秋田県出身のシンガーソンライターであるが、現在も音楽活動を行っているかどうかは定かではない…というか、どうなのか俺は知らない笑

彼女のCDはアルバム盤である『ブルー』しか持っていないのであるが、そのアルバム盤を購入するに至った理由というのも、そのものズバリこの曲が収録されていたから。

何時の頃だったか、随分昔の話ではある。
深夜にスペシャだかで流れていたこのPVを見、そうして曲を耳にし、俺は直ぐに気付いた。この曲には絶対に、そう絶対にナンバーガールの向井が一枚噛んでいる!と。

何せ大好きナンバーガール!なこの俺のこと、もうその時点で『購入決定!』であった。一回聴いただけで、それだけ気に入った笑

そうなのだ。後先になるが、この曲はナンバーガールの『向井秀徳』が作詞作曲を手掛け、ハルに提供した楽曲であるのだ。

そしてハルの綺麗でしっかりとしつつも抑揚を抑えたボーカルを際立たせている、このくすんで乾いた音の奔流を生み出しているのが、この楽曲の為だけに向井と『54-71』の面々が結成した『ZAZEN BOYS』である。

そう、あの『ZAZEN BOYS』は、実はこのタイミングで既に結成されていたのだ!…と言っても、ご存知の様に現在のザゼンとはメンバーが全く違う。
同じザゼンの名を冠してはいるが、このザゼンはあくまで『6階の少女』におけるハルのバックバンドという限定的な物であった。

但し限定的とは言え、wiki様によると向井がナンバーガール解散後に改めて『ZAZEN BOYS』を立ち上げる際には、初代オリジナルメンバーとなる『54-71』の面々と一席を設け、話を通したらしい。
詳しくはwiki様の現ザゼンの解説ページへのリンクを貼るので、興味がある方は各々でそちらを参照のこと。

ZAZEN BOYS

さて、少し話を元に戻すと、この楽曲に関しては歌っている彼女に申し訳ないとは思うものの、兎にも角にも曲の節々、歌詞の節々より滲み出ている向井のオーラにばかり惹かれて購入したといっても過言では無いのだ。

ぶっちゃけて言うと、何故歌っているのがハルなのかと、ナンバーガールでやらなかったのかと、思わなくも無かった笑

そうして暫くの時を経て、改めて向井のボーカルでカバーした『6階の少女』が『半透明少女関係』という新生ザゼンボーイズのシングル盤に収録されたらしいが、残念ながらこのシングル盤はライブ会場の限定盤らしく、俺は持っていない。

しかしながら音源についてはコチラで聴けるので、最後にどうぞ。

ZAZEN BOYS/六階の少女

…こうやって聴き較べてみると、ハルのオリジナルバージョンも、アレはアレでかなり好きだなと再認識した。
何て言うのか、オリジナルの方はその素直さが良いと言おうか、分かり易い所が良い。

いや、というかそもそも、この曲はザゼンっぽくないんだよなぁ。
ナンバガでやってたら多分、全く違和感が無かったと思うんだけど笑

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東京タワーを見上げながら暫く歩いていくと、どうも増上寺のものであると思われる大門が見えてきた。
何故に増上寺のものかと思われるかと言えば、答えは簡単。

だってホラ、増上寺って書いてある。(じゃあ増上寺だろ)
しかし、端正なオフィス街の一角に突然、こういった建造物がポーンと存在しているのも、こうやって目の当たりにすると中々に趣がある。

この大門は江戸時代から此処で周囲の変遷を眺めてきたのだ。
そうして長い時を経て、今まだ此処にこうやって、俺の前に健在しているのかと思うと、何処か変に胸が熱くなる。

これもまた一つの、人が人としての短い生を全うする中で得る事が出来る数少ない擬似的な悠久体験か。
昔確かに此処に在り続けたであろうであろう大門は、そうして今此処に、俺の目の前にも在るのだ。

(後で調べてみると、実はコンクリート設えの物でして、どうも昭和12年だかに造られた物だそうです。こういう勘違いもまた旅の醍醐味ですね笑)

…さすりさすり。※思わず潜り様に大門を擦る。

…。

…臭い。※その指を嗅…嗅いでんじゃねぇよオイ。

さらに進んでいくと、これまた増上寺と関係の有りそうな建造物が見えてきた。
後に調べてみると、この建造物こそが東京大空襲にも焼かれずに残ったと言う三門(三解脱門)であった。関係有りそうな所か増上寺そのものだコレ。

こりゃまた凄いな、建物自体も勿論凄いが、周りの都会じみた景色との融和具合が凄い。
コンクリートジャングルの一角にぽっかりと開いた穴のようなこの空間。
しかしながら周りに飲まれる訳でも無く、いや寧ろそんなコンクリートジャングルをしてただの引き立て役が如く、悠然たる態度で空間を支配するかのようなその存在感と言ったら、凄い。
潔く、とても堂々としているのだ。その姿には、戦火をも免れ長年この場所に在り続けた存在としての矜持めいた物すら感じる。

それにしても、おい其処の貴様!さっきから何だコノヤロウ!

人が折角、歴史的建造物と端正なオフィス街の融和具合やその在り様を楽しんでいると言うのに、おい其処の貴様!

そんなにリュックの右肩の紐が気になるならもう背負うのやめろ畜生!

気になって其処ばっかり見てしもうたわ畜生!

…(実は俺、悠久体験してませんでした。据わりの悪いリュックの紐体験しかしてませんでした。スミマセンでした。)

リュックの紐の据わりが悪い兄さんをずっと眺めていた所で時間の無駄であるし、その場を後に境内へと足を踏み入れてみた。
何でも幾ばくかの銭を支払えば三門の内部に入れるみたいだ。そりゃまぁ入ってみるしかないだろう。
受付で銭を支払い、記念品の薄く削いだ竹に絵の描かれた栞を貰った後、靴を脱いで『THE 昔ながらの建て付け』と言わんばかりの急勾配な階段から三門内部へ。
本来の木造りの階段を傷めない為の配慮だろう、その上を覆う様にタラップが設置されていて、俺たちはそのタラップを上がるような形だ。

因みに、内部は撮影禁止だったので当然ながら画像も無いのだが、代わりに外から撮った急勾配の階段の画像を載せておく。

…ゴンッ。『OH〜!』

身の丈180cmは優に有る外人のオッサンが頭を打った。非常に痛そうだ笑
確かに、あの人たちからすればこの建物なんかは小人…とは言わないまでも、まるで子供向けの家みたいな物なんだろう。
それはつまり、昔の日本人からすればまるで赤鬼のような存在感でもあったんだろうなぁ。日本の各地に伝わる鬼に纏わる伝承なんかの幾つかは、鬼ではなく流れ着いた外人だったのかも知れないなぁ…などとぼんやり考えながら階段を上がり切ろうとしたその時、ゴンッ。非常に痛い笑

さっき頭を打った外人がこっちを見て笑っていたので『OK、OK!』と笑い返しておいたが、今考えると全く意味が分からない。何がOKだったのか。

そうして内部に安置されていた釈迦三尊像十六羅漢像を眺めたり、三門内部からのパノラマビューを見下ろしたりしながら、暫し三門内の雰囲気を楽しむ。

三門より境内へと戻った後は、色々と散策しながら取り敢えず奥へ奥へと進める所まで進んでみた。
丁度この年の大河ドラマは『江〜姫たちの戦国〜』であったので、その江こと崇源院が埋葬されている増上寺では至る所でこういった江アピールが目に入った。
もっとも俺は女性が主人公の大河ドラマとはことごとく相性が悪く、ほんの一度も、それはもう小指の先程にも面白いと感じた事が無いので、まぁどうでも良い。

大殿と東京タワー。
東京タワーを正面に臨んで進んでいるので、奥に進むと同時に東京タワーにも近付いている筈。近付いていないと困る。

さらに大殿と東京タワー。
近付いているのは間違い無さそうだが、そもそもこのまま行き抜けられるのだろうか増上寺
それはそうと、先にも述べた大河ドラマ『江〜姫たちの戦国〜』の放送記念だか何だかで、何と徳川家霊廟が一般に開放されているとのこと。
という事は、普段は開放されていないのだろうか?その辺は良く分からないが、まぁどちらにしろ折角の機会なので、立ち寄ってみる事に。


そこかしこに溜まってモタモタしている年寄りの塊を押しのけ搔き分け受付にて大人一人分の銭を払い、案内板に従って歩いていく。
因みに上記の画像が霊廟への門であるが、実際にはこの横にある通用口から霊廟へと入った。

少し開けた庭のような場所に、それぞれの石塔が等間隔に立ち並ぶ。霊廟には徳川将軍15代の内では実に秀忠、家宣、家継、家重、家慶、家茂の6人が葬られているそうだ。
外の喧騒が嘘の様に静かで、何処か澄んだ空気が辺りを包んでいる。
まるで深い深い森の奥にひっそりと人知れず存在する沼のような、そんな静けさ。外気と交じり合って居ないが為に冷たく澄んだ空気。

何だろう、虚しさでは無い。悲しさでも勿論、無い。ただ、"空"だ。
それらに纏わる想いは存在する、それらが在ったと言う事実も存在する。ただ、"空"なのだ。
『夏草や、兵どもが夢の跡』といった気持ちは、こういった気持ちを指しているのか。そんな"空"の、そうかこれは感傷だ。

そうして、当たり前の事ながら、その場を取り巻くそんな空気より心から実感する。
『ああ、此処はお墓なのだなぁ』と。本来、観光などで来るべき所では無いのかも知れない。

お騒がせしました、と一礼し、そうして来た道を境内へと戻った。